鈴木 |
まずさ、入った瞬間に、風船をセッティング
している人たちがいたよね。ベアーの人が。
あれ、ずっと見てたんだけど、これは、
結局あとで気づいたけど、非常に自主的に、だよね。
お客さんだったんだよね。 |
糸井 |
そこがもうオーロラ性を出しているわけですよ。 |
鈴木 |
そういう、たくさんのゲートをくぐって、
やっとポカスカジャンにたどり着いたわけだ。
で、クマのぬいぐるみしょってるじゃない?
数人の観客のかたが。なんていうか……
かき乱されたね。頭ん中がね。
だから、ステージがはじまってくれて、
ポカスカジャンを見ているときは、
いちばん安定した状態だったわけだ。
「ああ、俺は、ポカスカジャン見てるんだぞ」って。 |
糸井 |
観客になれたわけだ、初めて。 |
鈴木 |
そうそうそう。ま、それまではビール出したりね、
お店の手伝いして。 |
糸井 |
店の手伝いはかえってよかったね。栓抜いたりね。
なるべく、こう、邪魔しないようにっていう生き方を
もう始めてたよね。下っ端の生き方はイイね、
やっぱり、どこの世界入る時もね。 |
鈴木 |
そうなんだよね。 |
糸井 |
パシリとしての観客。
俺もね、あれで落ち着いた。
あれでずいぶんよかったよなあ。
お役に立ってるかんじがして。
カンビール、しずくこぼれないように拭いたりして。 |
鈴木 |
なんか、整理してたよね。ビール。
メーカーがわかるように。 |
糸井 |
直しといたんだよ。 |
鈴木 |
で、みんな、声ちっちゃくなってるんだよ。
邪魔しないように、ちっちゃく、コソコソコソ……って。
あれは、だから、ベアーの人たちと同じ場所に座ったら、
違うんだろうなあ。
けっこうカチカチになってたかもしれない。
女の人いないんだけど、そこにいると、
男だらけって感じもしないし。
トイレに行こうとすると、よけてくれたりして。
なんか親切なんですよ、みなさん。
ぎゅうぎゅうなんだけど。 |
糸井 |
気遣いがあるんですよ。
ぎゅうぎゅう詰めのところでトイレ行こうとすると、
行く人はものすごくタイヘンなんですよね。
だけど、スッ、スッとひざがよけてくれるんです。
あれは、学ぶべきだな。
相手の考えていることを先回りしてね。
スイスイ、トイレに行けたもん、あんなところで。
あれはね、似てるのはね、ジャイアンツのファンが
固まっている中、ビールを買いに行こうとしている時。
ビール屋さんと遠い時、「あいよっ」っつって、
スイスイスイってお金を渡してくれる。
でも、それ、勝ってる時だけどね。
みんなが機嫌がイイってことで連帯感がある時。 |
鈴木 |
(笑)。 |
糸井 |
もう、隣組って感覚なんだよ。
で、ポカスカジャンは……。 |
鈴木 |
ポカスカジャンはね、ホント面白いよ。2度見たけど。
で、どこが面白いのか。
それを思い出そうとするんだけれど、
どんどんネタ忘れていくんだよ。
見ているときも、「あれ? 俺さっき笑ってたの
何だったんだろう?」って、思い出せなくなっちゃう。
次へ、次へと行くんだね。
あと、楽器とか、よく知ってそうだよ。
たとえばベンチャーズのサウンドやる時、
弾いた後、ウンって、ネックのとこ
曲げたりするわけだよ。
アコースティック・ギターなのに。 |
糸井 |
トレモロしてたよね。 |
鈴木 |
形態はね、「あきれたぼういず」みたいなさ。
真ん中の、あの人なんてんだっけ。 |
糸井 |
のんちん。 |
鈴木 |
あの人が、いわゆる坊屋三郎係(がかり)だよね。
パーカッション。 |
糸井 |
ミック・ジャガー好きな。 |
鈴木 |
だから、芸人さんっていうよりも、
バンド感があるんだよね。
それから、客いじったりメンバーをいじったりする、
あのいじり方が、俺、意地悪で好きなんだけどね。
その典型的なのがさ、バンドのヒストリーものが
あったでしょう。 |
糸井 |
あれ! 面白かったなあーっ!
(注:ポカスカジャンが結成するまでの歴史を唄にした
ナンバー。もとはミュージシャン志望だった3人が、
最初は不本意なまま、現在のような形のお笑いバンドを
組むに至った過程を、愛憎いりまじりながら披露する。) |
鈴木 |
どうやって出会ったか、っていうのをさ、
1人ずつやっていく、っていう。
あれって、ちょっと、パクりたいなあって思うよ。 |
糸井 |
あの、他のメンバーが、自分のことを揶揄しながら
唄っているのを聞いているときの居かたとか、
けっこう、芸だもんね。
ああいう時の省吾って子は、うまいね。
あれで人気があるんだろうなあ。 |
鈴木 |
俺、昔、パーティで、ギターがあると、
ブルースコードで「人をいじめるブルース」っていうの、
やってたんだよ。 |
糸井 |
ムーンライダーズで? |
鈴木 |
俺ひとりで。そばまで行ってさ、
「オマエ、何年前に、こういうことしたろ」って。
5分くらいずついじめていく、っていうのが
あったんだけど。でも、芸ではないからね、それ。
「オマエ、人に紹介する時困るんだよな職種不明で
なんとかかんとかなんとかなんとかかんとか……」って、
ずーっと、いじくるの。 |
糸井 |
気配はポカスカジャン! |
鈴木 |
でも、もっと意地悪いんだけど。 |
糸井 |
あのバンドヒストリーって、多分もう台本も
あるんだろうから、これからもしょっちゅうやってほしい。
あれがなかったら、距離、今みたいに近くないと思うんだ。
あれを入れることで、プロフィールが全部わかるから。
「イヤで始めた」っていう感じが、いいんだよ。 |
鈴木 |
「しょうがねぇなあ」っていう。 |
糸井 |
好きで始めたんじゃない、誰も。
だって、イヤでやっているわけじゃない? 最初は。 |
鈴木 |
好きな音楽が別にあってね。
それを、露呈しちゃうっていうのは、
近づきやすくなるよね。 |
糸井 |
新しいよ。
本気じゃないお笑いグループなんだ、っていう言い訳に
なっちゃうところを、そこまで含めて芸にできてる、
っていうのは、やっぱ、
「ワハハ本舗」のセンスだと思うんですよね。
つまり、「ワハハ」自体が、お笑い的にはどっか
アマチュアな匂いっていうのを残してる。
で、プロだと、芸人としての寿命を縮めるからやらない芸を
するわけですよ、アマチュアって。
つまり、どこまで出しちゃうかなんてのはさ、
プロはそれ1回やっちゃうと……。 |
鈴木 |
消費だよね。 |
糸井 |
うん。消費だから、もうやらないようにしているのを、
アマチュアって一発で勝負しているから、
出しちゃうんですよ。
その感じを精神的にやったのが、
あのバンドのメンバー紹介。 |
鈴木 |
下手すると楽屋落ちになっちゃうもんね。
あれね、たとえば、1人がやっているときに、
誰かのことを突っつくじゃない?
そんときに、受けるほうが、いいんだよね。
受けるほうが、フッと笑っちゃったりさ。
あのへんがさ、初めて言われたことのように見える。 |
糸井 |
見える見える。躱(かわ)さないしね。 |
鈴木 |
逆襲するぞ、っていうところも見えるし。 |
糸井 |
あの日はやっぱりあのバンドヒストリーに、
俺らの心はギュッとつかまれたっていう気がしますね。 |
鈴木 |
うん。そう。まさにそう。 |
糸井 |
どれも面白かったんだけど、あれで自己紹介が済んで、
二次会をやったような気持ちになった。 |
鈴木 |
そうそうそう。そうなんだ。最初にね、二次会をね。 |
糸井 |
なりましたね。ほかのネタというと……
たしかに、ネタ的に、あまり覚えてないんだよね。
最後にやった東北弁のやつは覚えてる。 |
鈴木 |
津軽ボサ! いいね!
(注:『イパネマの娘』のメロディに、
下ネタの歌詞を津軽弁でのせた作品) |
糸井 |
思い出し笑いするな、やっぱり。 |
鈴木 |
相当いろんな音楽を聴いているんだろうね。
CD聴いてるほうが好きだぁ、っていう感じが……。 |
糸井 |
やっぱりミュージシャン系ですよね。
クレイジーキャッツなんかは、
俺はデビューから知っているんだけど、
アマチュアっぽさが、すごく面白かったんですよ。
ほんとはバンドマンなのに、お笑いをやってるから、
ちょっとやけっぱち、っていうような感じがあって。
で、そのあとの、ドリフは僕は好きじゃなかった。
じつは。今だから話そう、みたいだけど。
つまりね、音楽好きとは思えなかった。
で、本職だったんだよ、やっぱり、お笑いが。
おとといだったかな、雑誌の対談で、いかりや長介が、
ドリフターズはバンドじゃなかった、
あの形をとって、クレイジーみたいなものの
おこぼれを拾おうと思ってスタートした、って。
それをちゃんと言っているんで、
ああ、やっぱり! って。
35年さかのぼって……もっとだよ。
40年さかのぼって腑に落ちた。 |
鈴木 |
くっきり違うよね。クレイジーと。
でも、ビートルズの前座やってる。 |
糸井 |
ポカスカジャンが、あのバンドっぽさを捨てずに
やっていくためには、思いっきり、
芸人さんもやらないようなバカな衣装とかさ、
そういうことが大切なんじゃないかな。
お笑いの人たちは、どっちかっていうと、
「カッコイイお笑い」になりたがっているわけですよ。
それがさ、あのボンボリつけたような衣装で出てくる。
あれは、お笑いの人は、いまはもう
しないことですよね。そこでバランスをとってる。 |
鈴木 |
そうだね。ミュージシャンシップみたいなものとね。 |
糸井 |
あれはもうやっぱり、ナイス・プロデューサーがいる、
っていう気はしますね。
誰だってさ、バンドやってるやつって
モテたくて始めるわけだから。
ワァワァキャアキャア言われたいわけじゃない?
それを、どんどんヘンなふうにしていってるじゃない?
あれはねえ、異界に、人身御供(ひとみごくう)で
送られた人間だっていう……。
「異界の人身御供」っていうのと、
「二丁目のオーロラ輝子」っていう。 |
鈴木 |
コピーが2つ出たね。 |
糸井 |
あのバンド・ヒストリーの唄のなかに、どうやって
人身御供をやってきたか、っていう話が入っている
わけだよね。
あのさ、のんちんの、攻撃的な舞台進行っていうのは、
やっぱり、いいね。
あそこにミック・ジャガーが生きているよね。 |
鈴木 |
あとパンクもあるね、あそこに。
又、使うけどこの言葉。 |
糸井 |
あぁ、パンク入ってる! |
鈴木 |
場面の切り替えの時に強引なところもいいんだよ。 |
糸井 |
あれもパンクだ。 |
鈴木 |
そうそう。突然、絶ち切っちゃうから。
だから見ている側はネタを忘れるのかも。次から次へと。 |
糸井 |
出合いがしらの笑い、みたいのが多いじゃない?
で、それは、ホントは、お笑いから言うと
「低い」とされているタイプのものなんだけど、
でも、明らかに、練って作ってますよね。
……練り込まれた出合いがしら。 |
鈴木 |
ウン。 |
糸井 |
今日、俺、コピーライターみたいだ(笑)。 |
鈴木 |
みっつめ(笑)。 |
糸井 |
3人のキャラが全くちがう、っていうのもいい。
カブリが全然ないんですよ。 |
鈴木 |
ないね。 |
糸井 |
……ポカスカジャンの『ホテル・カリフォルニア』が
聴いてみたいね。 |
鈴木 |
あ、いいね。 |
糸井 |
ツイン・リードで。両サイドの。
バンド気分を自分で思いっきりウットリしててもらって、
一言だけギャグが入っているみたいな……。
おまえ、これ、どういうネタなんだよ? って。
「ギターが弾きたかったんだよーっ!」(笑)。 |
鈴木 |
そうだよ。
「ギターが弾きたかったんだよ」ていうのは
成立するんだよ。あの人たち。 |
糸井 |
するよね。「これ弾きたかったんだよ」って。
で、あの、のんちんが、口ギターで。トリプルギターで。
「俺だってこんなバケツ叩いてばっかり
いられねえんだよ、時には」って。 |
鈴木 |
そういえば、あのドラムセットすごいね。
あのバスドラがわりの金だらいに、上履きがくっついてる。 |
糸井 |
あれ、上履きのおかげで、戻るようになってる。
ギターはちゃんと高いの使ってたよね。 |
━━ |
YAMAHAのモニターになったんですよ。 |
鈴木 |
え? YAMAHAのモニターになったの?!
楽器のモニターやってるお笑いの人っていないだろうなあ。
それやっぱりさ、バンドとかさ、ミュージシャンだよ。 |
糸井 |
慶一くんは「ポカスカ」、全く知らなかったんだ? |
鈴木 |
ウン。「ワハハ」は知ってっけど。 |
糸井 |
俺がだまして連れてったみたいなもんなんだ。
「おもしれえんだよー」って。
実は俺も生で見るのは初めてで。昔、テレビでね、
『東京Aランチ』っていう、お笑いのグループばっかり
集めた、ネタをちゃんとやらせる番組があったんですよ。
若手のお笑いの人を、どういうふうに育てていくか、
っていう番組。
1組に1人ディレクターがついて、
一緒になって自分たちの売り込み方を考えて、
ネタをやる、っていう番組だったんだ。
これはね、俺ね、よぉーーーーっく探せばビデオに
録ってあるんだと思うんだけど、
すばらしい番組だったんだよ。
だって、ココリコ、ネプチューン、ふかわりょう、
ポカスカ、いっぺんに出てたもん。
それが全部ネタやったんだもん。
いま、ネタやる番組ないからね。
そこで、すげえなあと思ったのがネプチューン。
わけがわからないんだけどチャーミングだった。
ふかわは、これ間違うと売れるぞ、ってかんじだったんだ。
ココリコは、完全に台本がよかった。田中くんの。
で、ポカスカはね、これ、前からやってたんじゃ
ないか? っていうくらい完成されてたんだ。
それで、優勝がポカスカだったんだよ。 |
鈴木 |
あ、そうなんだ。 |
糸井 |
優勝すると、番組がつくってもらえる、
っていう権利の争奪戦だったんだ。
でもそのごほうびの番組は、10分とかの番組なんだけど。
「やっぱポカスカのほうがオトナだから
ネプチューンじゃないんだなー、1等賞になるのは」
って目で俺は見てて。
「でも、どっちになってもOKだよなー」
って思ってた。これが1回目。
そのあとはね、中山省吾が家出をして、
お父さんに勘当されたんだけれども、
故郷に小さな錦を飾る、っていう番組があって。
それで見た。泣かせものだったの、それ。
勘当とかされるんだよ。
それも知ってたんで、あのヒストリーものは
特にオツだったわけ。 |
鈴木 |
(笑)。 |
糸井 |
それじゃあ、第1回二丁目篇は、
「また次のライブがあったら見よう」って気にさせた? |
鈴木 |
そう。 |
糸井 |
お笑いはもともとキライじゃないんだよね。 |
鈴木 |
キライじゃないよ。 |
糸井 |
で、べつに「ポカスカ」を一番だっていわなくても
いいんだけれども、ほかにどんなのが好きなの? |
鈴木 |
ほかにねえ……俺ね、ここんとこ好きなのは、
昭和のいる・こいる。
あれ、神経症漫才だと思うんだよね。
「あーわかったわかったああそうねそうね」っていう。
これもね、NHKかなんかで、1年……
1、2年くらい前かな、「なんだこの漫才は!?」
と思ったんだ。ウン。 |
糸井 |
ちょっとライダーズ色あるね。 |
鈴木 |
昭和だから。昭和のバンドだからね。 |
(次回につづく) |