COOK
鈴木慶一くんと、
非時事放談「月光庵閑話」。

糸井&鈴木

いよいよ第4回。今回から“第2シーズン”です。
春の日の午後、ゆるゆると鼠穴を訪れた月光庵。
このごろ気になっているお笑いバンド
「ポカスカジャン」についての話がはじまりました。
まずは、2人が見た新宿二丁目での
男性限定ライブのことから……。


これがポカスカジャンだ!

ポカスカジャンのプロフィール

糸井 ポカスカジャンって『二丁目のオーロラ輝子』だよね、 
二丁目を通天閣とするならば(笑)。
俺たち、こないだの二丁目ライブに行くときに、
歩いている人を「ここの世界の人たち」っていう見方で
見てたじゃない? ああやって、外の人は
二丁目を「異界」として遊びに行くわけだけど、
ポカスカジャンは異界の中にいたよ。

慶一くんは、ポカスカジャンのこと、
そんなに、初めは、期待してなかった?
鈴木 うん。だって、情報がないからね。
二丁目っていう場所がさ、まず想像つかない。
こりゃ、何が起きてもしょうがないのかな、なんてさ。
で、店入ったら、うわっ、こりゃまた……、
「ベアー(ひげくま)系」だっけ?
情報は、それしかないわけだよね。
ポカスカのお客さんとして、そういう人が
いっぱいいるわけだ。
「あ、そうか……こりゃ、正直いって、
えらいとこ来ちゃったなー」って。
ポカスカジャンに至るまでに、
いろんなことがあったんですよ、ワタシの中には。
まずさ、男ばっかなわけだよね。
女性、いないわけだ。
そういう状況っていうのは、
ホントに経験ないんですよ。
糸井 見たことないよね。
鈴木 いやぁ、ずっと男女共学だし。
お酒飲んでても、男ばっかだと、早めに帰っちゃう。
それがね、男ばっかの中でですね、
しかもお店の人がいる居場所にいてですよ。
糸井 カウンターの中にね。


バーカウンターの中から初めての
ポカスカジャンを見る月光庵とdarling

鈴木 まずさ、入った瞬間に、風船をセッティング
している人たちがいたよね。ベアーの人が。
あれ、ずっと見てたんだけど、これは、
結局あとで気づいたけど、非常に自主的に、だよね。
お客さんだったんだよね。
糸井 そこがもうオーロラ性を出しているわけですよ。
鈴木 そういう、たくさんのゲートをくぐって、
やっとポカスカジャンにたどり着いたわけだ。
で、クマのぬいぐるみしょってるじゃない?
数人の観客のかたが。なんていうか……
かき乱されたね。頭ん中がね。
だから、ステージがはじまってくれて、
ポカスカジャンを見ているときは、
いちばん安定した状態だったわけだ。
「ああ、俺は、ポカスカジャン見てるんだぞ」って。
糸井 観客になれたわけだ、初めて。
鈴木 そうそうそう。ま、それまではビール出したりね、
お店の手伝いして。
糸井 店の手伝いはかえってよかったね。栓抜いたりね。
なるべく、こう、邪魔しないようにっていう生き方を
もう始めてたよね。下っ端の生き方はイイね、
やっぱり、どこの世界入る時もね。
鈴木 そうなんだよね。
糸井 パシリとしての観客。
俺もね、あれで落ち着いた。
あれでずいぶんよかったよなあ。
お役に立ってるかんじがして。
カンビール、しずくこぼれないように拭いたりして。
鈴木 なんか、整理してたよね。ビール。
メーカーがわかるように。
糸井 直しといたんだよ。
鈴木 で、みんな、声ちっちゃくなってるんだよ。
邪魔しないように、ちっちゃく、コソコソコソ……って。
あれは、だから、ベアーの人たちと同じ場所に座ったら、
違うんだろうなあ。
けっこうカチカチになってたかもしれない。
女の人いないんだけど、そこにいると、
男だらけって感じもしないし。
トイレに行こうとすると、よけてくれたりして。
なんか親切なんですよ、みなさん。
ぎゅうぎゅうなんだけど。
糸井 気遣いがあるんですよ。
ぎゅうぎゅう詰めのところでトイレ行こうとすると、
行く人はものすごくタイヘンなんですよね。
だけど、スッ、スッとひざがよけてくれるんです。
あれは、学ぶべきだな。
相手の考えていることを先回りしてね。
スイスイ、トイレに行けたもん、あんなところで。
あれはね、似てるのはね、ジャイアンツのファンが
固まっている中、ビールを買いに行こうとしている時。
ビール屋さんと遠い時、「あいよっ」っつって、
スイスイスイってお金を渡してくれる。
でも、それ、勝ってる時だけどね。
みんなが機嫌がイイってことで連帯感がある時。
鈴木 (笑)。
糸井 もう、隣組って感覚なんだよ。
で、ポカスカジャンは……。


ポカスカジャン二丁目ライブのようす

鈴木 ポカスカジャンはね、ホント面白いよ。2度見たけど。
で、どこが面白いのか。
それを思い出そうとするんだけれど、
どんどんネタ忘れていくんだよ。
見ているときも、「あれ? 俺さっき笑ってたの
何だったんだろう?」って、思い出せなくなっちゃう。
次へ、次へと行くんだね。
あと、楽器とか、よく知ってそうだよ。
たとえばベンチャーズのサウンドやる時、
弾いた後、ウンって、ネックのとこ
曲げたりするわけだよ。
アコースティック・ギターなのに。
糸井 トレモロしてたよね。
鈴木 形態はね、「あきれたぼういず」みたいなさ。
真ん中の、あの人なんてんだっけ。
糸井 のんちん。
鈴木 あの人が、いわゆる坊屋三郎係(がかり)だよね。
パーカッション。
糸井 ミック・ジャガー好きな。
鈴木 だから、芸人さんっていうよりも、
バンド感があるんだよね。
それから、客いじったりメンバーをいじったりする、
あのいじり方が、俺、意地悪で好きなんだけどね。
その典型的なのがさ、バンドのヒストリーものが
あったでしょう。
糸井 あれ! 面白かったなあーっ!

(注:ポカスカジャンが結成するまでの歴史を唄にした
ナンバー。もとはミュージシャン志望だった3人が、
最初は不本意なまま、現在のような形のお笑いバンドを
組むに至った過程を、愛憎いりまじりながら披露する。)
鈴木 どうやって出会ったか、っていうのをさ、
1人ずつやっていく、っていう。
あれって、ちょっと、パクりたいなあって思うよ。
糸井 あの、他のメンバーが、自分のことを揶揄しながら
唄っているのを聞いているときの居かたとか、
けっこう、芸だもんね。
ああいう時の省吾って子は、うまいね。
あれで人気があるんだろうなあ。
鈴木 俺、昔、パーティで、ギターがあると、
ブルースコードで「人をいじめるブルース」っていうの、
やってたんだよ。
糸井 ムーンライダーズで?
鈴木 俺ひとりで。そばまで行ってさ、
「オマエ、何年前に、こういうことしたろ」って。
5分くらいずついじめていく、っていうのが
あったんだけど。でも、芸ではないからね、それ。
「オマエ、人に紹介する時困るんだよな職種不明で
なんとかかんとかなんとかなんとかかんとか……」って、
ずーっと、いじくるの。
糸井 気配はポカスカジャン!
鈴木 でも、もっと意地悪いんだけど。
糸井 あのバンドヒストリーって、多分もう台本も
あるんだろうから、これからもしょっちゅうやってほしい。
あれがなかったら、距離、今みたいに近くないと思うんだ。
あれを入れることで、プロフィールが全部わかるから。
「イヤで始めた」っていう感じが、いいんだよ。
鈴木 「しょうがねぇなあ」っていう。
糸井 好きで始めたんじゃない、誰も。
だって、イヤでやっているわけじゃない? 最初は。
鈴木 好きな音楽が別にあってね。
それを、露呈しちゃうっていうのは、
近づきやすくなるよね。
糸井 新しいよ。
本気じゃないお笑いグループなんだ、っていう言い訳に
なっちゃうところを、そこまで含めて芸にできてる、
っていうのは、やっぱ、
「ワハハ本舗」のセンスだと思うんですよね。
つまり、「ワハハ」自体が、お笑い的にはどっか
アマチュアな匂いっていうのを残してる。
で、プロだと、芸人としての寿命を縮めるからやらない芸を
するわけですよ、アマチュアって。
つまり、どこまで出しちゃうかなんてのはさ、
プロはそれ1回やっちゃうと……。
鈴木 消費だよね。
糸井 うん。消費だから、もうやらないようにしているのを、
アマチュアって一発で勝負しているから、
出しちゃうんですよ。
その感じを精神的にやったのが、
あのバンドのメンバー紹介。
鈴木 下手すると楽屋落ちになっちゃうもんね。
あれね、たとえば、1人がやっているときに、
誰かのことを突っつくじゃない?
そんときに、受けるほうが、いいんだよね。
受けるほうが、フッと笑っちゃったりさ。
あのへんがさ、初めて言われたことのように見える。
糸井 見える見える。躱(かわ)さないしね。
鈴木 逆襲するぞ、っていうところも見えるし。
糸井 あの日はやっぱりあのバンドヒストリーに、
俺らの心はギュッとつかまれたっていう気がしますね。
鈴木 うん。そう。まさにそう。
糸井 どれも面白かったんだけど、あれで自己紹介が済んで、
二次会をやったような気持ちになった。
鈴木 そうそうそう。そうなんだ。最初にね、二次会をね。
糸井 なりましたね。ほかのネタというと……
たしかに、ネタ的に、あまり覚えてないんだよね。
最後にやった東北弁のやつは覚えてる。
鈴木 津軽ボサ! いいね!
(注:『イパネマの娘』のメロディに、
 下ネタの歌詞を津軽弁でのせた作品)
糸井 思い出し笑いするな、やっぱり。

鈴木 相当いろんな音楽を聴いているんだろうね。
CD聴いてるほうが好きだぁ、っていう感じが……。
糸井 やっぱりミュージシャン系ですよね。
クレイジーキャッツなんかは、
俺はデビューから知っているんだけど、
アマチュアっぽさが、すごく面白かったんですよ。
ほんとはバンドマンなのに、お笑いをやってるから、
ちょっとやけっぱち、っていうような感じがあって。
で、そのあとの、ドリフは僕は好きじゃなかった。
じつは。今だから話そう、みたいだけど。
つまりね、音楽好きとは思えなかった。
で、本職だったんだよ、やっぱり、お笑いが。
おとといだったかな、雑誌の対談で、いかりや長介が、
ドリフターズはバンドじゃなかった、
あの形をとって、クレイジーみたいなものの
おこぼれを拾おうと思ってスタートした、って。
それをちゃんと言っているんで、
ああ、やっぱり! って。
35年さかのぼって……もっとだよ。
40年さかのぼって腑に落ちた。
鈴木 くっきり違うよね。クレイジーと。
でも、ビートルズの前座やってる。
糸井 ポカスカジャンが、あのバンドっぽさを捨てずに
やっていくためには、思いっきり、
芸人さんもやらないようなバカな衣装とかさ、
そういうことが大切なんじゃないかな。
お笑いの人たちは、どっちかっていうと、
「カッコイイお笑い」になりたがっているわけですよ。
それがさ、あのボンボリつけたような衣装で出てくる。
あれは、お笑いの人は、いまはもう
しないことですよね。そこでバランスをとってる。
鈴木 そうだね。ミュージシャンシップみたいなものとね。
糸井 あれはもうやっぱり、ナイス・プロデューサーがいる、
っていう気はしますね。
誰だってさ、バンドやってるやつって
モテたくて始めるわけだから。
ワァワァキャアキャア言われたいわけじゃない?
それを、どんどんヘンなふうにしていってるじゃない?
あれはねえ、異界に、人身御供(ひとみごくう)で
送られた人間だっていう……。
「異界の人身御供」っていうのと、
「二丁目のオーロラ輝子」っていう。
鈴木 コピーが2つ出たね。
糸井 あのバンド・ヒストリーの唄のなかに、どうやって
人身御供をやってきたか、っていう話が入っている
わけだよね。
あのさ、のんちんの、攻撃的な舞台進行っていうのは、
やっぱり、いいね。
あそこにミック・ジャガーが生きているよね。
鈴木 あとパンクもあるね、あそこに。
又、使うけどこの言葉。
糸井 あぁ、パンク入ってる!
鈴木 場面の切り替えの時に強引なところもいいんだよ。
糸井 あれもパンクだ。
鈴木 そうそう。突然、絶ち切っちゃうから。
だから見ている側はネタを忘れるのかも。次から次へと。
糸井 出合いがしらの笑い、みたいのが多いじゃない?
で、それは、ホントは、お笑いから言うと
「低い」とされているタイプのものなんだけど、
でも、明らかに、練って作ってますよね。
……練り込まれた出合いがしら。
鈴木 ウン。
糸井 今日、俺、コピーライターみたいだ(笑)。
鈴木 みっつめ(笑)。
糸井 3人のキャラが全くちがう、っていうのもいい。
カブリが全然ないんですよ。
鈴木 ないね。
糸井 ……ポカスカジャンの『ホテル・カリフォルニア』が
聴いてみたいね。
鈴木 あ、いいね。
糸井 ツイン・リードで。両サイドの。
バンド気分を自分で思いっきりウットリしててもらって、
一言だけギャグが入っているみたいな……。
おまえ、これ、どういうネタなんだよ? って。
「ギターが弾きたかったんだよーっ!」(笑)。
鈴木 そうだよ。
「ギターが弾きたかったんだよ」ていうのは
成立するんだよ。あの人たち。
糸井 するよね。「これ弾きたかったんだよ」って。
で、あの、のんちんが、口ギターで。トリプルギターで。
「俺だってこんなバケツ叩いてばっかり
いられねえんだよ、時には」って。
鈴木 そういえば、あのドラムセットすごいね。
あのバスドラがわりの金だらいに、上履きがくっついてる。
糸井 あれ、上履きのおかげで、戻るようになってる。
ギターはちゃんと高いの使ってたよね。
━━ YAMAHAのモニターになったんですよ。
鈴木 え? YAMAHAのモニターになったの?!
楽器のモニターやってるお笑いの人っていないだろうなあ。
それやっぱりさ、バンドとかさ、ミュージシャンだよ。
糸井 慶一くんは「ポカスカ」、全く知らなかったんだ?
鈴木 ウン。「ワハハ」は知ってっけど。
糸井 俺がだまして連れてったみたいなもんなんだ。
「おもしれえんだよー」って。
実は俺も生で見るのは初めてで。昔、テレビでね、
『東京Aランチ』っていう、お笑いのグループばっかり
集めた、ネタをちゃんとやらせる番組があったんですよ。
若手のお笑いの人を、どういうふうに育てていくか、
っていう番組。
1組に1人ディレクターがついて、
一緒になって自分たちの売り込み方を考えて、
ネタをやる、っていう番組だったんだ。
これはね、俺ね、よぉーーーーっく探せばビデオに
録ってあるんだと思うんだけど、
すばらしい番組だったんだよ。
だって、ココリコ、ネプチューン、ふかわりょう、
ポカスカ、いっぺんに出てたもん。
それが全部ネタやったんだもん。
いま、ネタやる番組ないからね。
そこで、すげえなあと思ったのがネプチューン。
わけがわからないんだけどチャーミングだった。
ふかわは、これ間違うと売れるぞ、ってかんじだったんだ。
ココリコは、完全に台本がよかった。田中くんの。
で、ポカスカはね、これ、前からやってたんじゃ
ないか? っていうくらい完成されてたんだ。
それで、優勝がポカスカだったんだよ。
鈴木 あ、そうなんだ。
糸井 優勝すると、番組がつくってもらえる、
っていう権利の争奪戦だったんだ。
でもそのごほうびの番組は、10分とかの番組なんだけど。
「やっぱポカスカのほうがオトナだから
ネプチューンじゃないんだなー、1等賞になるのは」
って目で俺は見てて。
「でも、どっちになってもOKだよなー」
って思ってた。これが1回目。
そのあとはね、中山省吾が家出をして、
お父さんに勘当されたんだけれども、
故郷に小さな錦を飾る、っていう番組があって。
それで見た。泣かせものだったの、それ。
勘当とかされるんだよ。
それも知ってたんで、あのヒストリーものは
特にオツだったわけ。
鈴木 (笑)。
糸井 それじゃあ、第1回二丁目篇は、
「また次のライブがあったら見よう」って気にさせた?
鈴木 そう。
糸井 お笑いはもともとキライじゃないんだよね。
鈴木 キライじゃないよ。
糸井 で、べつに「ポカスカ」を一番だっていわなくても
いいんだけれども、ほかにどんなのが好きなの?
鈴木 ほかにねえ……俺ね、ここんとこ好きなのは、
昭和のいる・こいる。
あれ、神経症漫才だと思うんだよね。
「あーわかったわかったああそうねそうね」っていう。
これもね、NHKかなんかで、1年……
1、2年くらい前かな、「なんだこの漫才は!?」
と思ったんだ。ウン。
糸井 ちょっとライダーズ色あるね。
鈴木 昭和だから。昭和のバンドだからね。
(次回につづく)

ポカスカジャンに質問! パート1

1999-04-29-THU

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